2009-07-01 00:00 | カテゴリ:未分類
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2009-05-17 10:56 | カテゴリ:読んだ本
音楽のように淀みなく流れてゆく、女子高生達の恋と友情

芥川賞作家・津村記久子さんの青春小説。

派手なメガネとカラフルな歯列矯正をはめた女子高生・アザミの視点で、大学受験と個性豊かな友人関係を音楽を豊かにまじえながら描かれる物語。
アザミは親友のチユキが好きな男子にひどい目に遭わされたことを知り、ささやかな復讐をする。
アザミは電車で痴漢に困っていたアヤカちゃんを助けてあげ、彼女と仲良くなる。
ところが、アヤカちゃんはアザミが気になっていたメイケ君の恋人になってしまった。
チユキがアヤカちゃんをやっつけてしまったので、アザミとアヤカちゃんもなんとなく気まずくなる。
アザミは音楽を通じてモチヅキやトノムラという男子と親しくなるが、一方で苦手だと感じていたりもする。
また、アザミの仲介でチユキとナツメが親しくなったりもする。

若い頃は、ちょっとしたきっかけで友情が壊れたりすぐに復活したりする。
その目まぐるしさと、自分の立場が危うくなるのも省みず友達を助けたりできる無謀さもよく描けていると思った。
文章も正統派という感じで、落ち着いていて分かりやすい。
ただ、今時な雰囲気を醸し出すのにカタカナ語が多すぎて目がチカチカしたのと、
過去と現在、場所などがめまぐるしく変わりすぎるので読みにくい部分があった。
洋楽が好きだという人にはもっと面白く感じられるかも知れないが。
また、最後の方は何となく宙ぶらりんというか、はっきりとしたエンディングがなくまさに流れるように終わってしまったので、もう少しアザミの変化などがあると面白いのではないかと思ったりした。

☆☆☆(星3つ)

ミュージックブレスユー
2009-05-17 10:32 | カテゴリ:読んだ本
思想書のようで宗教書のような、一個人の半生と妄想

金比羅

笙野頼子さんの小説。
新聞やインターネットでも評価が高いので読んでみた。

40を過ぎた女性小説家の「私」は、実は「金比羅」だった。
金比羅は黒い翼の生えた蛇神。死んだ赤ん坊の体内に入り込み、醜を極めていく。

その半生は、女性として完成してゆく自身の体への恐怖・自分を奇異なものとして見る家族や他人への抵抗・効率化された社会、能率至上主義への反発から来る闘いの物語だった。

私自身も変わり者だったので、社会における自分の居心地の悪さみたいなものは共感できる。
神仙世界への憧れのようなものもあるし、自分の体が大人になっていく怖さも分かるし、カーテンの模様からリスが飛び出てくるのが見えるような気持ちもよく分かる。

恐らく筆者をモデルにしたと思われる主人公の宗教的な価値観は、偏っていて独特であり、完成されている。他人に何を言われようが、「ふぅーん。けーっ!」と鼻で嗤い、自分の価値観を最後まで貫く。何者にも揺らぐことがない、可愛げのない金比羅。
その妄想は、フィクションでは片づけきれないようなリアリティを秘めていて尚且つ濃い。

もしこの主人公が作家にならなかったら、かなりの変わり者か少し頭のおかしい人として片づけられていたかも知れない。
けれど、その才能が埋もれることなく文壇で発揮されて良かったと思う。

思想書のようであり、宗教書のようであるが、「一個人の妄想として書かれた、れっきとした純文学」なのが凄い。
この世界は、笙野さん以外の誰にも書けないだろう。
ここまで密度の濃く、個性の強い作品を読んだのは初めてで、強烈に心に残った。

☆☆☆☆☆(星5つ)
2009-05-16 23:22 | カテゴリ:読んだ本
宝くじで3億円を当て、『仙人』になった男

福井県敦賀市を舞台にした作品。

宝くじで3億円当てたカッツォこと河野勝男は、会社を辞めて浜辺近くの家に引っ越す。
神様のファンタジー、恋人のかりん、同僚の片桐などとの交流を通して、河野のつつましい生活とゆったりとした時間が描かれていく。
そして、突然明らかになる河野の忌まわしい過去。今は遠い存在になってしまった姉。

河野とファンタジーと片桐が三人で国道8号線をだらだらと走っている時に富山県が出てきます。
車がガス欠になり、三人はガソリンスタンドを探す。
場所は、「富山市を出てしばらくしたところ」である。

左右には田畑が開き、サラ金と仏壇屋の看板ばかりが目についた。
右手の平野が終わる頃には重量感のある灰色の立山連邦がそびえ立っている。
山の中腹はうっすらと白い霧にけぶっていたが、思いの外高い稜線はくっきりと輪郭を空に描いていた。


立山の描写がリアルになされている。

また、「玄関を入ってすぐに台所がある家は、家族が集まる家…」というくだりにも納得した。

作品全体の感想としては、さすが芥川賞作家だけあって、描写に長けていて、現実世界の乾いた孤独感が見事に表現されていると思う。
言い回しも見事で、飾らない文体が読みやすく好感が持てる。
(車が頻繁に出てくるのも絲山さんらしくて良いと思う。)
私自身は元同僚の女性のサバサバしたキャラクターに惹かれたが、登場人物全員の個性がよく出ている。

ただ、ラストの展開は慌てて締めくくったような感があり、<3年後><8年後>と年月の経過が早すぎるし、文章が説明っぽい。ここに冒頭部分の丁寧な描写が欲しいところだ。
最後までちゃんと書き終えることが出来たら、きっと今より物凄い作品になっていただろうな…と思うと少し残念な気がする作品だ。

☆☆☆(星3つ)

海の仙人
2009-05-01 01:45 | カテゴリ:小説
事件を追って名探偵・浅見光彦が訪れた先は…越中万葉の里「高岡」

主人公・浅見光彦は33歳独身のルポライター。趣味で「探偵ごっこ」をやっている。
刑事局長の優秀な兄を持ち、いつも母親から比べられている。

菩提寺の鐘から突然したたった血―隅田川に浮かんだ死体の謎を追い、四国高松へ。
途中で越中高岡出身の美女・松川彗美(えみ)と出会い、共に事件の手がかりを探していく。

ホテルニューオータニの描写があり、三階の和食の店で浅見と彗美が日本海で獲れた活け作り料理を注文するシーンがある。

ホテルニューオータニの創始者・大谷米太郎は富山県小矢部市出身の実業家。
裸一貫から努力してついに鉄鋼業へと乗り出し、その後ホテルニューオータニを創業した人物だ。
貧農の家庭に生まれ31歳で上京、力士から酒屋になり、その後鉄鋼圧延用のロール製作所を起業した大変な努力家。

浅見と彗美は事件の手がかりを追って高岡を歩く。
日本三大大仏の一つ、高岡大仏に詣で、路面電車の道を通って、銅器団地へ。
この本のタイトルは『鐘』だが、銅器の町・高岡は全国有数の鐘の産地なのだ。

そして、万葉集に辿りつき、そこからさらに推理は広がる。
歌人の大伴家持が越中国司として高岡の地に赴任していたのは有名な話である。

東京から四国高松、越中高岡、そして京都へと物語の舞台が移る。ジェットコースターのような展開だ。
『鐘』をキーワードに組まれた巧みなプロット。銅器は、型があるから同じものが幾つも作れる。
浅見の穏やかでおっとりとした人柄に好感が持てる。

内田康夫さんのあとがきには「もちろん鐘の本場は富山県高岡市。ここだけはしっかり取材しました」と書いてあった。
取材したのは「老子(おいご)製作所」。作中には、これをもじった「若親製作所」が登場(笑)。
高岡大仏、高岡古城公園などの名所がさりげなく登場していて嬉しい。

浅見と彗美が万葉集関係について調べた古城公園内の図書館は、今では高岡駅前の再開発ビル「ウイング・ウイング高岡」に移転している。

確かに、作中に出てくる高岡の描写はイメージがすぐに浮かんでくる。
浅見の視点から、内田さんの感じた高岡に対する印象もこんな感じなのかな?と思った。

(『鐘』(幻冬舎文庫・2003)より)